第一回ロカンダ世田谷マーケティングサロン
〈1〉林知己夫さん―B29のエビソード―
なぜ、こういうサロンをやろうと思いたったかというと、僕はもう60を超えましてマーケティングリサーチの世界で生き字引になったかもしれないなと思っています。この事務局をやってくれることになった野口君とか、油谷君とか、そういう30代40代の人、自分の息子にあたる世代と雑談をしていると、調査の事についてこんな事って知ってる?って言う話をすると意外と知らなかったりする。そういった知識や暗黙知というのは伝承されていないんだね。伝承されていないということはマーケティングとかマーケティングリサーチということは死に体になっている気がします。
ここにいらっしゃる方のどの位がご存知かは分かりませんが、林知己夫さんという方がいます。日本人としては世界に誇れる統計数理学者です。東京帝国大学の卒業生で理学部数学科を卒業した人。いわゆる、数量化1類、2類とか3類とか定量データの分析する仕組みがあってそれを作った人です。クラスター分析に関わる、今当たり前のように言われていることを作った人、大したものだなと思っていて、僕は30代の頃に林先生の所に、話を聞きに勉強しに行ったことがあるんですが、言っていることの大半はさっぱりわからなかった。
数式書いて、「これはこういうことだぞ」とか言われたんですけれども全然わからなかった。
ただ、次の世代にそういったことを伝えられる最後の世代に自分がなってきたかなという気がしていて、そういったものを伝えていきたいというのがこの会をやろうと思った趣旨です。
多分このエピソードすらなかなか通用しないんじゃないかと思っている事があって、林さんが大学を卒業して陸軍の参謀本部みたいな所に勤めて、まず、日がな一日、B 29の飛来数の観察をずっとしていたそうです。今日は何機、何編隊来てどこに何発爆撃したかとかずっと観察調査してこれは数量調査というよりは観察調査です。そうしている時、ある日、2週間に1回 B 29の飛来数が大幅に減る時があるというのに気づいた。どういうことだろうと思っていたらその時にある仮説を思いつくわけですね。あ、これはサイパンの B 29の基地がお休みの日だった、あるいは爆弾の数が足りないとか、そういったことを考えると2週に一遍、何か来られない理由があるんだろう、そのぐらいの兵站能力しか持っていないのだろうと。
その後も、それを続けていくと今度は2週間に1回来ないはずの B 29が来るようになった、その時に林さんが思ったのは、サイパンの基地にさらに増援が来たんだろう、当然弾薬も来ているでしょ、そういった兵站能力が出来上がったんだろう、と。これだけの兵站能力がサイパンに出来上がっているとして、そうとなるともう日本は数ヶ月もたないと分析するんです。
それが彼の数理分析なんです。僕はそれを彼からエピソードとして聞いたこともあるし本でも読んだこともある、やっぱり見て観察をして実感をして、そこでパターンを見つけて初めて仮説を作る。この場合、相手は敵国ですから、当然リサーチなんてできない、そういう時に仮説を作ってこういうことじゃないかということを考えて、それから、もし可能であれば、数学的に解きほぐす。彼の数理分析は基本的にそれです。肌感覚で観察をする、僕らの言葉で言うとN=1、たった1サンプルでいいから、その中に込められてるものを肌感覚で理解する。で、仮説を作る。で、この仮説が本当に国民ベースで考える場合は、まあ、5000サンプルぐらいでしょう、もっとセグメント小さい場合、例えば30代の女性でという場合には500サンプルで検証すれば、数学的に保証できる。
林さんの本は一度読まれると良いと思います。ただ、半分ぐらいは何言ってるのかわかんないですが。
今マーケティングとかリサーチは、発想が逆になってまずどれだけ大量サンプルの結果なのかということころが興味関心になって、そうじゃないと意思決定できない。まず何サンプルでもいいから仮説を作って、本当に正しいかどうかは、数学的定量調査で検証する、整合性が取れるかどうかを確かめてみればいいだけの話。POSデータなんかもそうです。POSを見る前に誰が買ったか嫌そうに買ったかどうか、そういうのを発見するのが最初です。その順序が逆になっている。こういう仕事をやっていて発想が逆なんじゃないのと言う事が多い。
〈2〉―気持ち、行動のスイッチをどうつかまえるか―
今回のご案内の中に野口くんが書いていますが、「小説とか詩とか読んだことあるの」と僕から聞かれたそうですが、そんなこと言ったっけと思ったけど、僕もあんまり読んでいない。去年一年でたった一冊記憶に残っているのは室生犀星の絶筆です。最後死ぬ間際に書いた小説で、読んでいてひしひしと感じる、そういうことなんだな、じじいになる、ということは。間もなく死ぬということは、こういうことだなと感じる。そういうのが役に立つ、そうでもなかったら、小説読んでも面白くもなんともない。それよりも本当に起こった出来事が面白い。「われはうたえどもやぶれかぶれ」という小説で、年老いていくという事が何なのかが実感として分かりました。大量サンプルの老人の意識調査なんかより、はるかにサンプル1だけど肌感覚で分かることが大切なのです。
今日話す中の一つのテーマで、何が売れたとかっていうのは行動の一つの帰結点いわゆる POS データで出てくるようなデータです。それをどうやって食べたんだとか、食べてうまかったのかとかそういった点まではPOSでは分からない。
あるいは、買ったという軌跡が残るけれども、その前にどういう行動のスイッチが入ったか、いきなり、例えば、肉マンが食べたいと思って買いに行く奴はそうそういない、その前に何らか軌跡があって、その結果、買うという行為に至る、その間なんらかのスイッチが入って、たぶん最初は気分のスイッチかなんかが入って、あるいは、もうちょっと行動に近いスイッチが入ったりして、あるいは、3日前にスイッチが入っていて急に思い出して、また買って食べたいと思っただとか。やっぱりこのスイッチの流れがうまく取れないとマーケティングにはならない。
スイッチってどうやって入ってるかと言うと自分のことを考えるのが一番よくわかる。どうやって自分はスイッチ入れているんだろうと考えてみる、これは24時間ずっと追っかけてないといけないので、他人のことはよくわからない。自分の事といっても、それだけをあんまり独善的にならずに、人様はどのようにお考えなのかということを考える、そういったエピソードをいくつか今日話しします。
たとえば、12月というのはクリスマスがあって、クリスマスって本当はどうなのかなとつらつら考えてみた時に、そういやクリスマスって何もしてないのかもしれないと思いました。僕は今は子供は独立していて、クリスマスは基本的に妻と二人。何もやることない。でもまぁ、昨今は、クリボッチという言葉が話題になっていた、我が身に返ってみて、いまいち、やっぱりクリスマスはパッとしないんではないかなと。でも、晩御飯作らないといけない時にクリスマスだから鶏かなとか、冷蔵庫に残っている唐揚げでもあげますか?みたいな感じ。ここ5年くらいそんな感じになっているんじゃないか。この歳になったらプレゼントもサンタクロースもない、子供が小さい頃は義務感もあってやっていたけど。若い世代が、クリボッチと言ってて、クリスマスなんか祝うのを鬱陶しくって、めんどくさいと思っている こういう人が増えていそうだと。
〈3〉―「クリスマス」から見える未来―
ちょっと、きっかけがあって、クリスマスの事をデータで見ていたら、やっぱりなかなか良いデータがない。これをWEB調査なんかでやってみたら怪しくてしょうがないです。よく電車の中でiPad とかスマホを開いてなんかやっている、あれけっこうWeb 調査だと思いますよ。お前もうちょっと真面目に回答しろと思ってみているけど、どうも信用ならんなと思って、僕は見ている。
林知己夫さん達が心血をそそいでその基盤を作った調査の1つで、日本の家計消費支出調査というのがある。総務省統計局というところが発表しているオープンなデータで、著作権は全くありません。この家計消費支出調査というのを私は物凄く信頼していて、ただ、めんどくさいからみんな使わないんだけれども。これは9000サンプルでやっている調査で、毎日毎日何を買ったか、いわゆる家計簿をものすごく細かくやっている。これを見ると大概のことがよくわかる。これが毎日、1日ずつ出てくる。
その調査の中の12月の家計調査を見ていて、12月24日に何をやっていたかと。そうするとやっぱりそういうことなのかなと思うのが、どれも、この日に支出が上がってないんです、微動だにしていない。むしろ下がっているぐらい。見ていたら牛肉も鶏肉も豚肉も平常と全く変わっていない。鶏肉ですら変わらない。だから、生活者がクリスマスに何か特別なものを食べるということを放棄している事がわかるのです。消費支出というのはその日に、あるいは4日以内ぐらいに食べられているものが何であったかという観点で見ている。だから単純に言うとクリスマスにご馳走を食べてない。
別の言い方をするとご馳走を食べてないということは人が集まってないということです。人が集まった時には家計消費支出は爆発的に上がるんです。だからひとりぼっちかふたりぼっちにクリスマスは変わっていったんです。私が子育てをしていた80年代、多分その頃は親と子供達が集まってご馳走を食べるという流れがあったんだと思う。そういうのは、現在は壊滅状態。そのうち、クリスマスというイベントはなくなると思う。クリスマスを狙って何かマーケティングしようというのは金輪際やめたほうがいいと思う。
クリスマスに伸びている家計支出というのは唯一外食。外に行って焼肉でも食べようかとか、あるいは子供がいるならガストでも行ってみるか、これは伸びると思います。もう一個、他の日と比べると桁が二つくらい違うのがあって、これはケーキです。だから、クリスマスはケーキを買ってくる日なんだと、それ以外何もない 。そういえば僕も食べたような気がするなケーキを。でも、それは一週間前に 生協の宅配できたやつです。だから一週間ぐらい前から支出が上がっているんだと思う。
このように家計消費支出調査というのはすごく信頼できる。中には、9000サンプルで国民全体のことがわかるのかという人もいるけれども、B 29の飛来数を一定期間ちゃんと見たら日本の敗戦が分かるというぐらい、統計数理というのはちゃんとしているんです。ちゃんと仮説を持っていればね。
クリスマスというのは日本の生活の中から抜け落ちていく傾向にあると思う。「ケーキを食べる日」という残像しか残らなくなっていく。僕は食べ物が固有でセットになっていないイベントというのは駄目になっていくと思う。ケーキだけで残っていくというのはダメでしょ。だから、ハロウィンもパッとしないだろうなと思うのは、ハロウィンって一体何を食べるの?と。ハロウィンだからあれとこれを食べようぜ、というのがない。かぼちゃは私のようなおじいちゃんの世代は冬至に食べるものです。食い物のパターンがある程度セットされている行事でないと残っていかないと思う、これは外来文化であるとかは関係ない傾向だと思う。
〈4〉ウナギをマーケティングとしてみると・・・・。
まもなく、7月の土用の丑の日ですけれども絶対ウナギ食うぞと思ってる人いますか?去年食べた人は?今日の参加者の中では、それでも3割弱といったところですが、僕、この5年間うなぎ食べてないです。高いし。 一人4000円、夫婦で食べても1万円でしょ。やっぱり家計消費支出調査を見ても落ちてるんです。10年前は1600億円ぐらいあった家庭内市場です。これが大体6割近くに減少している。でも7月だけ見ると全然減っていない。ウナギに対する消費支出というのは、ずっと横ばい。どういうことかと思っていたら、これは実に簡単な話で、家計消費支出というのは実によく出来ていて、頻度というのがある、それを見ていると10年前は 同じ家計消費金額なんだけれども65%ぐらいの人たちがうなぎを食べている。今はそれが半分くらいになってきている、だから3割ぐらいの筋金入りのウナギファンという人がいる。そういう人は、7月になったら意地でも食べるぞと思っている。1回はね。
大したファンでもない奴はこんな高いもの食べなくていいわと言って離脱している。だから、35%の人達の市場になっている 。
ウナギは、7月だけで1年間の5割ぐらい近くが消費されている。だからウナギは7月にしか需要がないと言ってもいいぐらい。土用の丑の日にウナギを食うと言う文化もよくわからない。平賀源内がなんとかといったエピソードがあるようだけど、あれで土用の丑の日に食べるということになっている。けれども、以前、一緒に仕事をしたことのある、九州のウナギの専門家に言わせると、夏場のウナギは一番脂が落ちていてまずいと。一番美味しいのは秋口から冬にかけてで、土用の丑の日に食べる江戸っ子なんて言ってるのは、馬鹿だねと言っていた。
でも、ならせば、7月以外に食べてる人ももちろんいる。何のために食べてんのかよくわかんない。よっぽど好きなのかなと思っていた。でも、12月29日30日31日ぐらいでウナギの消費が上がっているんです、買ってる人がいるのです。これはご馳走という事です。多分「ひつまぶし」でしょうね、うな重なんかは食べてないと思う。それは理にかなっていると思うし、実際にネット検索でも、この時期ウナギというキーワードが上がってくるんです。「気になる」というスイッチが入っているということですね。何らかの。
ちなみに、おじいちゃんおばあちゃんはうなぎ食べた方がいいんです。介護施設に行くと12月とお正月にうなぎが出てくるところがある。先ほど、個人としての肌感覚を大事にしたほうがいいと言ったけれども、それだけを大事にしていると間違うこともあるので要注意ですが、最近女房と二人でご飯を食べていると本当に野菜ばっかり出てくる。たまに、そこに肉片が混ざってくるという程度。実際、あんまり動物性タンパクを食べたいと思わない、年をとったからどうこうと言うのはやっぱり当たっている。でも、これは体に悪いそうです。年寄になったらより動物性タンパクを食べなさいと、菜食は体に悪いからやめろと、医者から言われた。ウナギというのは、最低限の動物性タンパク、これが7月の土用の丑の日以外のうなぎを食べるというチャンスですね。
だから、もし、ウナギのマーケティングを頼まれたら土用の丑の日からウナギを解放するというマーケティングを、私はやると思う。でも抵抗勢力というのは5割いて、ここで食べなきゃ許さんという人もいるでしょうね。ともかく、統計数理学的に整理されたデータを見ていくと、そういうことも仮説としては成り立つんですね。
〈5〉12月のハーゲンダッツ
生態気象学の常磐先生が、今日はいらっしゃってます。常盤さんの研究によると、気温は25°を超えるとアイスが売れるんだそうです。そういうデータがあって、僕は大変参考になっていて、でもそれだけではないんじゃないんですか?と時々いじめてあげるんですが(笑)。特に常盤さんの言葉で言うと「昇温期」、これは気温が日々上がっていく時期ですね。この時期は20度でも体感としては25度ぐらいに感じる。逆に9月あたりは「降温期」なので20度近くでもぐっと涼しく感じる事もある。夏に向かって25度を超えてくるとアイスが食べたい。30度を超えて真夏日になるとアイスではなくて氷菓が食べたいとなる。例えば、明治とか森永が出したアイスが売れなくなってくる。こういった時に一番よく売れているのが「サクレ」ね。あれは本当に美味しいと思う。よくあれ開発したねと思う。35度を超えたらサクレだね。特にレモンね、気分のスイッチがどんどん入っていく。
ただ、そうとばかりは言えないこともある。それが例えばハーゲンダッツ。基本的に、乳脂肪分の高いアイスは温度帯が上がっていくとダメなんです。ネットリしすぎている。じゃあ、いつ売れるんだと、寒かったらもちろん売れないし、暑くても寒くても売れないんだったらどこに行ってるんだ という話なんだけれど、実は12月には売れてるんですね。電車に乗って通勤する方はよく分かると思うけれども、12月になると電車の暖房温度が上がってくる 、その上、 12月に入って天気予報とか見ていると「寒いです」とか書いてあって、そうすると、ウールのコートを着込んだりする。その状態で暖房の温度が高い電車に乗ると汗かきます。で、大手町で降ります。そこからオフィスまで歩く。まだ暑いんですね。そうすると気持ちを変えるスイッチが入るんです。だから、地下鉄の中にハーゲンダッツの広告を入れたら絶対に効くぞと思っているんです。タッチポイントというのはモチベーションの高い時に接点を持たなければいけない。代理店の言っている タッチポイントというのは、往々にして、「タッチするかもしれない」ポイントにしか過ぎない。モチベーションが高い瞬間に情報が当たっていればこそ、タッチポイントになるんです。
だから、ニューデイズに徹底的に重点配荷をしようとか、オフィスの近くにあるコンビニに重点的に配荷する、そうするとストーリーができる。通勤経路内のコンビニで爆発的に火がつく。でも、レモンはダメだと思う(笑)ハーゲンダッツのレモンフレーバーとか出しても絶対売れてません。やっぱり「きなこあずき」だよね。あるいは「抹茶」かな。とにかく、これが僕らの言っている行動心理ということです。
冷蔵庫、冷凍庫の調査をしたことがあります。そうは言ってもWeb でアンケートとかは行ったりはしません。生活者の家庭に入って、冷凍庫開けます、冷蔵庫開けます、これはなんだと聞いていく、そうすると大体、その家の人は「私もよく分かりません」という。なんだか、干からびたものとか、よく出てくるんだけど、それを見ていると大切にしているものほど綺麗に上の方にあります。で、ハーゲンダッツは大体なんでこんなに入ってんのというぐらい入っています。しかも、冬の季節に。
極論すれば寒いというのは、どこの事を言うんだということ、今日半袖の T シャツを着てきましたけども、私は基本的に暑がりなんです。それでも、昨今の電車に乗ると寒い。じじいばばあは寒がりなんです。これは他の年代の人にはわからないだろうなぁと思います。同じくらいの世代の人はみんな言います。博報堂に行動デザイン研究所というのがあって国田さんという方がいらっしゃいます。行動スイッチと気持ちの連鎖というのを、今、彼と二人でやっていて、この前も話していた。その時にも、「電車寒くないですか」と言ったら「寒い」と言ってた。そこで、「それよりもこの会議室寒くない?」と聞いた・・・そんな感じで仕事の話を置いて、ひたすら寒い談義をしていたんですけれども・・・まあ年寄りは働いてない人が多いのでいいんですが、女性はかわいそうです。夏でも寒いです。
〈6〉8月―猛暑のホットコーヒー―
僕は長い間コーヒーのお仕事をやっていたんですけれども、時系列のコーヒーの利用形態調査の分析もやっていた。10年ぐらい前まではドリンクサーベイと名のついた調査は、対象者が59歳以下だった。60歳以上は調査対象者になっていなかった。そんな調査は山ほどあった。今は80代まではとっています。で、調査対象年齢を伸ばした、そうすると飲用量が伸びているんです。シニアはコーヒーをよく飲むんです。そんな飲んだらおしっこが出るでしょうというぐらい飲んでいる。
コーヒーはアイスとホット二通りしかない。その中でもホットコーヒーの飲用が増えてる。これは今まで飲んでなかった機会に飲まれているということです。つまり、夏に飲まれないと増えないのです。冬は飲んでるに決まってる。
冬はさすがにアイスコーヒーを飲む人は今は少ない。ただこれから増えると思う。さっきの冷蔵庫調査をやってみて、アイスコーヒーのネックは氷を作ってないということ。氷作ればいいじゃんと思うんだけど、対象者に聞いてみると、氷をどこで作ればいいんですかと聞き返された。「トレイで作ればいいじゃないですか」というと、「それは捨ててしまいました」とか、もっと面白いのが、離乳食を作るのに使ってしまう、アイストレーに乗せて離乳食を作っていた人もいた。とにかく、氷の家庭内保有率が低いから、これはアイスコーヒーの難敵。これさえクリアされれば冬のアイスコーヒーは増えると思う。なぜなら冬の住宅内は暖房が効いていて、あったかくなっているのだということ。これは、夏の室内が逆に寒いという事と関連付けられることなのです。
夏のホットコーヒーは今まで少なかったんです。大体2割5分ぐらい。それが、今、セグメントによっては7割超えます。くっそ暑い夏場にホットコーヒーを飲む。ホットコーヒーを飲むのは現実的に言うとホットの方が豆のフレーバーがよく出る、単純においしいんです。正直言ってだからホットコーヒーの方が美味しいのは事実なんだけれども、だから猛暑なのにホットコーヒーなんです。アイスではなくてね。だから、原田知世が出てきてブレンディなんだかんだと言ってる場合じゃない、ホットコーヒーのキャンペーンやらなきゃいけないんじゃないのと思っているだんけど。つまり、夏だから暑いのでホットコーヒーは飲まないではなく、コーヒーを飲むシーンの環境条件・温度にもっと関心を持って気分のスイッチ、行動のスイッチを見ておく必要があるのです。
ここで、考え方は2通りあって、一つは、やっぱりシニア層がホットコーヒーを飲んでいて、これは、さっき言ったように夏でも寒いしね。できればホットコーヒー。常温でコーヒーを飲むという習慣はない。お茶だったら別なんだけどさすがにコーヒーだと美味しくない。ホットコーヒーが飲まれているのはシニアというのはある。
ホットコーヒーは煎れるのに時間がかかるというネックがある。ただね言ったって10分ですよ。コーヒーを煎れるのにかかるのは、あの瞬間が楽しいという人もいるんです。楽しくない人はそういうのはやらない。シニアのコーヒータイムは、ドリップして飲むという時間を消費するシーンにスイッチが入るという事です。この瞬間、私は幸せという人もいるんです。その瞬間がコーヒーを飲む意味なんです。心身ともに、ホっとして暖かくなる。これがホットコーヒーを飲む意味なんです。
若い人、30代。これがまた時間がないとか色々言う世代。実を言うと、お子さんを産んだ後の女性、僕らの言葉で言うとポストマタニティの世代、ここでコーヒーよく飲んでいる。まあ、妊娠していたから我慢していたというのはある。それと出産後に味覚変化を起こすというのはあるんです。コーヒーがどんどん飲みたくなっちゃう 飲んでみたくなっちゃう、で、コーヒーに対して参入が増える。その時に、アイスに行く人はあんまりいない。なんでかと言うと子供がピーピーピーピーうるさい。あれが一瞬寝る。一瞬だけ。その時だけ私の時間になる。ちょっと不埒な奴はその時に一服吸いに行く。そうじゃない人はその時に、ドリップをするんです。幸せな瞬間。この時間は作れるんです。豊かさと作る時間てのはトレードオフする。ちなみに、リキッドコーヒーと呼ばれてる大きいペットボトル。あれはダメだと思う。飲むシーンがない。もちろんあるにはあって、例えば、町内会の集まりとか、そういう時には、あれがないとダメ。そうでもない限り、あれは無理だと思う、まあベースになる需要はある。ブランドによっては100億ぐらいの消費は維持します。でもトレンドはどこにあるか という認識は持った方がいい。トピックスとしての「8月のホットコーヒー」という行動スイッチの入り方はよくおさえておいた方が良いと思う。
〈7〉シミ、シワが気になるのはルミネのエスカレーター!
3年ほど前になりますが、ドモホルンリンクルと言う商品をターゲットに、博報堂の国田さんと一緒に、シミとシワに関するインサイトの調査をしたことがある。シミ、シワは一体いつ誰がどんな時に気にしているのというのがベースになると思って、気持ちのスイッチがいつ入るのかというのを調べてみた。そういう悩みをいつ感じるのかやってみて、なるほどなと気づいたのが、一つは女性が、自分の肌が汚い、目尻のシワが、とか気づくのはルミネのエスカレーターに乗った時と書いてある人がいたんですね。ちょっと行ってみるかと思って行ってみたら、あそこはガラス貼りなんですね。エスカレーターって、確かにガラスが多いでしょ、最近のすかしたビル程、ガラスが貼ってある。あれは気になるんです。結構ブサイクに見えてしまう(笑)。
次は地下鉄の中、特に立っている時、地下鉄って目の前が暗転しています。精度の悪いミラーの前に立っているのと一緒。これも、また、あんまりいい顔に映らない。光線の具合が悪いから目の下にクマがついたりよくなる。これが気になるんですね、女性はこんな時にシミ、シワを気になってるんだなと。それからトイレです。トイレの鏡ってちょっと気になる。これは要するに一人になる瞬間ということです。こんなシーンが“気になる”スイッチが入る時だということです。
もう一つ、とっても多いなと思ったのは、幼稚園とか保育園とかに送り迎えしているママさん。彼女達は送り迎えの瞬間にシミとシワが気になる。なんでかというと、同世代のママ同士が「どこどこのママは最近シミシワが目立つんじゃない?」とか噂になるんです。これは、男性の場合もそうだと思うんだけれども、ネガティブな要素、これは同性同士が多いんです。女性は絶対に異性の目線でネガティブチェックはしません。女性は女性同士の視線がもっと大きい。園の送り迎えは最重要ポイント。
それから大事なのは、気温と湿度と風向き。今日は西風が強くて埃が舞っているので肌の調子が悪いとか、あるいはヘアスタイルがうまく決まらないとか、こういった天候要素がすごく多い。年配の女性が「そんなにしなくてもいいんじゃない?」というぐらいに、紫外線の防衛をしている。「乾燥した風が目じりを直撃する。」というような感覚を訴えている人もいました。お天気と肌はすぐにスイッチにつながる関係だ。
とにかく、この瞬間に、適切な情報が来ていないというのが問題。園の送り迎えの、シミ・シワが気になる瞬間に、「シミが気になるあなたに」とかスマホでメッセージを送ってみるとか、ルミネのエスカレーターが気になるんだったら、そこに広告を出しておけばいいじゃないですか、実際にそういうのがいいかどうかは別ですけど。失礼なことを言うなと言われるかもしれないけど、それがモチベーションのピークにあたる「気になるスイッチ」を押す可能性があるんです。
しかしながら、これまでのパターンというのは夜の深い時間にCMを打つ。BSの夜なんかいっぱい入ってます。でも、その調査を見たら、夜の11時過ぎたら生活者は、はっきり言ってどうでもよくなる。もう顔がどうなろうとどうでも良い、今日は終わり。その前に30分かマッサージして、今日はもう大丈夫と思っているか、疲れきって今日は全て忘れる、という時間になっている。こんな時間にテレビでガンガンCM 打ってもみんなの気になるスイッチはもう寝ている。最もモチベーションが低い時間帯です。
〈8〉1次データ、2次データということ
最後にちょっとだけ資料のレビューをしておくと
このエクセルの表が家計消費支出調査の表です。よく見ると私が自分でつけた印が付いています。何を言いたいかと言うと、こういうローテクなことをやらないとデータが五感に響いてこないんです。パソコンの画面でエクセルをスクロールしているだけでは、ふーんというだけで終わりです。「ウェート付して全部色つけて分類して」とか指示を出すと、やってくれる人はいっぱいいる。ただそれを見ても綺麗だねと言うだけです。
それから、こっちは手書きです。自分で手書きしました。必要なとこだけ手書きで私は抜いてるんです。ここみると12月24日というのがあるでしょ。縦に色んな項目がダーっときて、ケーキというのが361.9円と書いてある、これはこの日にこの金額を支出しているという事です。普段は20円も買ってない。自分で自分の仮説を作ってイメージを膨らませるには絶対に手を動かした方がいいです。手を動かさない限り仮説がわかないのです。
こちらは、ウナギの家計消費支出データです。最近は棒グラフになったりかっこよくなってるものがデータだと思っている方が多いのですが、データって違うのです、こういうものなんです。後ろに日記調査のデータもついています。送り迎えをしたママが「どこそこのママはとっても綺麗でムカッ」とか書いています。ルミネのエスカレーターのこともここに書かれています。外出して外の風に当たって肌が乾燥して、「乾燥を目尻に感じる」と書いてある、こういう事がいいんです。寒さ乾燥が目尻に来る奴がいるんだなと。それが万人とは言いませんが。
最後にちょっとだけ真面目な話をすると、今お話しした生活日記調査みたいなのは生活者一次データです。一次データというのは仮説を持って何かを知りたい人間、企業が、直接社会調査の手法をとって、データを収集する。で、さっきみたいな家計消費支出データみたいなのは、これはニ次データ。基本的にリサーチで使うのは一次データと二次データです。二次データを先に扱って仮説を作るということもできます。だから、家計消費支出データをみたいなのをサクっと見て、仮説を作っておくというのもできる。
一次データは収集方法を間違えると、とんでもないことになる可能性がある。それは眼力が必要。対象者から健康志向という言葉が出てきた時に、何が健康志向だとか、そういうことが言えないと、要するに、仮説前提が持てるか持てないかです。
今日はとりあえず、 林知己夫さんの名前を覚えていってもらえば、私からの伝達事項は終わりです。日本というのは本当に捨てたものじゃない。独自で研鑽を積んで世界的に群を抜いている人はいます。
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