刑務所調査の話 事件は現場で起きている

【この記事は約5分で読めます(笑)】

 林知己夫氏が日本オペレーションズ・リサーチ学会の学会誌(1986年12月号)に寄稿した「数量化理論のできるまで」を読んだ。理数系にめっぽう弱い身にとって内容はほとんど理解できるものではなかったが、1つだけ印象に残っていることがあるので紹介します。 

調査の基本は現場、つまり1次情報から始まるということ。何だか当たり前のことのようで凄く大切なことです。以下、記事から引用したものです。


1人の刑法学者(西村克彦氏)が現れた。仮釈放の予測をやってみようということになった。刑期の1/3を過ぎたとき、累犯のおそれのないものを釈放するのだが、それをどう予測するか、その判断の成功率を高めなくてはならないわけである。 何はもとあれ、現場を見ようということになった。

場所は横浜刑務所である。刑法学者と私、それに統数研の私のところにいた石田正次君と3人で横浜刑務所に通っていろいろの体験をした。データ発生の現場である。刑務所生活によく適応し、素直で明るくよく働くという優等生は、刑務所太郎と言って、釈放してもすぐ罪を犯してもどるのだという。すごく反抗的なものも悪く、中位が一番累犯しないという傾向もよみとれた。裁判に対する態度でも、満足、不満というのも累犯しやすく、適度に不満が最も累犯しにくい要因であるらしいことも感じられた。-2、-1、0、1、2だのという+-の方向も、直線性も成り立たないことを身近に知ったのである。 

なぜこうなるのか体験してみたいと考えた。志願して(身分をかくして本当に)刑務所に入ってそれを体験するということが外国にあることを知って、日本でもできればやってみたいと統数研の所長に話したら「何を言うか」と一喝された。今の私なら、「やってみよ」と言いたいのである。仕方がないので、やはり外部からみて考えるより方法がなかった。西村氏と共同していろいろ考え、仮釈放に必要な調査項目をねりあげ、プリテストも実施した。その人の持つ諸特性(体型、生活歴、属性、居住歴、性格等)、犯した犯罪に対する態度、受刑中の行動、釈放されたとき帰り行く家庭環境・社会環境等の生活環境のようなものをとりあげた。ほとんどすべて定質的な調査項目である。 

次に何を対象とするかについては、釈放された受刑者ということまでは明確であるが、罪を犯さないとは何かを決めなければならない。罪を犯しても、つかまらない場合もあるが、これは致し方のないことであり、そうした人はまた罪を犯し、いつかは発覚するものであると言う。 そこで実際の過去の例を調べてみたら、再び罪を犯すものの95%は1年以内に累犯することが分かった。調査の期限もあまり長くては役に立たないわけで、一応1年以内に罪を犯さないものは釈放がうまくいったと判断することにした。ここで調査が始まったわけである。


以上「数量化理論のできるまで」(林知己夫氏)1986年12月号から引用 


調査対象と同じ環境に身を置いて自分で体験してみる、これは調査の基本であることを痛感させられます。 

そういえば、次回マーケティングサロンのテーマである【エスノグラフィーアプローチ「青空ごはん」】の調査で、講師の辻中氏は、オンラインコミュニティに入り込んで調査をされていたようだ。調査対象となる人間の自然なコミュニティにそっと入り込むことで人間を観察し、研究されています。これは、コトラーのマーケティング4.0の第8章でも触れられています。

パソコンの登場などツールは時代と共に変化しても、リサーチへのアプローチ方法は何だ変わりはしないようです。 

野口貴弘

Locanda世田谷マーケティングサロン

世田谷発マーケッターのためのサロンを定期的に実施しています。

0コメント

  • 1000 / 1000